市谷の杜 本と活字館 神楽坂と印刷業との深い関係
市谷の杜 本と活字館という施設があります。神楽坂、というにはちょっと遠いところですが、神楽坂のひとつの特徴として印刷出版業との深い関わりがあります。
外濠の反対側には角川、矢来町には新潮社、東五軒町には双葉社、そして最近移転してきた河出書房新社と、出版社がいくつも点在し、神楽坂は書籍文化の発信基地でもあります。そしてこうした出版社に呼応して印刷所も軒を連ねました。書籍取り次ぎ(出版社と全国の書店とのあいだで配送等を受け持つ役割)のトーハンが巨大な配送センターを郊外に移転させた影響もあり、印刷所は徐々に減りつつあります。
市谷の杜 本と活字館も、大日本印刷の工場があった場所で、かつては週間漫画誌などが大量に印刷、全国に配送されていったそう。出版社に勤めた年配の方などは、校正所(最終チェックを現場でする部屋)に通った記憶を懐かしそうに話されます。
ここに今は工場はなく(早稲田寄りの榎町にはまだ印刷工場が残る)、近代的なビルに建て替えられた中、建物のひとつを「市谷の杜 本と活字館」として保存、修復されたのが市谷の杜 本と活字館です。
公式サイトには保存・修復の経緯が紹介されています(→建築の復元|市谷の杜 本と活字館)が、増築しながら利用されてきた建物を可能な限り当初の様子に戻すための苦労があったようです。曳家も行い(建物の基礎から持ち上げ数十メートル移動する工法)、ほぼ同じ位置に当時の趣が残されたことになります。

建物の内部は印刷・製本・加工に関する博物館のようになっています。かつて活字を一文字ずつピックアップして並べて印刷していた体験をできるコーナーもあり、また秀英体という日本人になじみのあるフォントの歴史も紹介されており、楽しい施設です。
小説「銀河鉄道の夜」では、ジョバンニが活字を拾うアルバイトを印刷所でして日々の生活費を稼ぐシーンがあり、「なるほどこんな風に活字を拾っていたのか」と感じます。もちろん現代ではパソコンの画面で表示された文章がそのまま印刷に回るので、活字拾いはありません。
先日訪問したときにはベテラン社員が印刷機を稼働させ、新入社員がそれを見学するという社内研修プログラムが行われていました。実際にはもう、こうした印刷機に触れることはないのでしょうが、それでも印刷の歴史や企業として積み重ねてきたものと触れることは大切だと思います。
基本料金は無料なので、ふらっと訪ねてみるのもいいと思います。ただ神楽坂通りから移動するとちょっと遠いので、大江戸線の牛込神楽坂駅の牛込中央通りに近い出口から歩き始めたほうが楽かもしれません。
